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人生に影響を与えた1冊 『 ピュリツァー賞受賞写真全記録 』

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」

 

ピュリツァー賞 受賞写真 全記録 第2版

ピュリツァー賞 受賞写真 全記録 第2版

  • 作者: ハル・ビュエル,ナショナルジオグラフィック,デービッド・ハルバースタム(序文),河野純治
  • 出版社/メーカー: 日経ナショナルジオグラフィック社
  • 発売日: 2015/09/14
  • メディア: 単行本
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過去を知り、未来を見よ。

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はてなブログより今週のお題として「人生に影響を与えた1冊」というお題がきました、見た瞬間に本棚にあるこの本がすぐに思い浮かびました

 

【 ピュリツァー賞受賞写真全記録 

 

 ピュリツァー賞とは1年に1度新聞報道等に対して送られる栄誉ある賞のこと、あなたも何らかの受賞写真を1度は目にしたことがあるはず

 

 部門別にいくつもあるピュリツァー賞ですが、この本では「ジャーナリズム部門」に焦点を当てて紹介しています。

 

 本の著者は元AP通信写真部門責任者であったHal Buell(ハル・ビュエル)氏、翻訳は河野純治。ナショナルジオグラフィック社から発行され、写真のみでは伝わることのない歴史的、そして政治的な裏側などを丁寧に解説してくれています。

 

 

ところでピュリツァー賞ジャーナリズム部門の応募要件はたった2つしかありません

写真がアメリカの日刊紙に掲載されたもの

賞が発表される前年に撮影されたもの

 

 たったこの2つの要件を満たせばプロアマ関係なく、また政治・戦争・貧困・家族・動物といったジャンルも関係ありません。

 

ただし受賞作品にはどれも一貫する内容があります、それが

「報道価値のある出来事が1枚の写真に集約されている」ということです

 

 

時代とともに変わるピュリツァー賞

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この本の特徴は、ただのピュリツァー賞受賞作品集ではないというところです。

 

 具体的に言うと1942年の第1回受賞作品から始まる、カメラの進化や、通信インフラの発展、ジャーナリズムの変化 などが著者の目を通して解説されるところにあります。

 

1942年〜1961年を第1期「大判カメラと初期のピュリツァー賞受賞作品」

 

1962年〜1969年を第2期「カメラの小型化、ベトナム戦争と公民権運動」

 

1970年〜1980年を第3期「新たな賞、特集写真部門の創設」

 

1981年〜2002年を第4期「カラー写真、デジタル化、女性写真家、アフリカ」

 

2003年〜現在を第5期「デジタル革命」

 

と題し、それぞれの時代背景やまたピュリツァー賞自身の変容なども分かりやすく解説しています。

 

 中でも2000年代からのデジタルカメラや通信インフラの発展は、ピュリツァー賞とおよそ縁のない私達ですら体感できた時代でした。そのおかげで今では地球の裏側でも一瞬で、世界中のどこへでもニュースは配信されます。

 

まさに革命的とも言える時代だったのではないでしょうか。

 

 

ひとつの写真の持つ、大きな力

 そしてこの本では、たった1枚の写真によって歴史が動く様を、そのバックグラウンドとともにに解説しています。

 

 例えばフリーランスのジャーナリスト Kevin Carter(ケビン・カーター)によって撮られた 「ハゲワシと少女」(1994年特集部門作品)

※以下からの作品名は本からの引用となります

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発表直後から多くの反響と批判、社会的なセンセーショナルをもたらしました

 

 本ではこの写真がいつ、どうやって撮られたのか、その背景には一体何があったのか、それから社会はどう変わっていったのか。

など、著者の目を通して写真からでは伝えられなかった出来事を知ることができます

 

 

他にもAP通信社の Joe Rosenthal(ジョー・ローゼンタール)の「硫黄島の星条旗」(1945年写真部門)

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 実はこの頃のアメリカ国民は硫黄島などの太平洋戦地(ペリリュー、ガダルカナルなど)には全くと言っていいほど関心がなかったそうです、しかしどの場所でもとてつもないほどの戦死者が出ていました。

そんな中ローゼンタールによって撮られたこの1枚がアメリカ国民の心を大きく動かします。

 時の米大統領ルーズベルトは国債発行キャンペーンとして大々的に持ち上げ、『存命の人物の肖像は使わない』という郵政省の反対を押し切り3セント切手にまでしてしまいました。

 

 1枚の写真が政治的に利用されたり、社会を動かしてしまうといった印象的な2つの受賞作です。

 

 

そして最近でも、ある写真が世界中を話題にする大論争に巻き込みました。

 

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海岸に打ち上げられたシリア難民の子供

 

この写真を見て胸を打たれない人はいません、しかしこういう考えもあります。

 

「もし、この子供が汚い格好をした難民の大人だったら?」

難民で死んだ沢山の内の一人にしか過ぎない、今までこの問題を知らなかったのか?」

 

 これも『たった一枚の写真』が内包する強烈なメッセージ性の表れだと思います。また、この写真を見てどう捉えるかは結局私達次第なのです。 

 

3名の日本人受賞者

1961年 長尾靖(毎日新聞社) 「舞台上での暗殺」

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         社会党書記長であった浅沼稲次郎暗殺事件

長尾はこの写真により、アメリカ人以外での初の受賞者となり日本人初のピュリツァー賞受賞者となりました。

 

 

1966年 沢田教一(UPI通信) 「爆撃からの逃走」

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                           ベトナム戦争の戦火から逃れる家族を撮った一枚

 

 

1968年(特集部門) 酒井淑夫(UPI通信) 「静かな雨、静かな時」

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ベトナム戦争時のアメリカ兵

 

おわりに

 この本で紹介されるピュリツァー賞受賞作のいくつかは、きっと目を覆いたくなるような写真だと思います。しかしその背景にある出来事や、その写真が撮られた経緯を知ることで、過去を知り私たちの未来へ目を向けることができると思います。

 

 またジャーナリストと呼ばれる方々のその不屈の精神には敬服するばかりです。色々と批判の矢面に立つことも多い職業ですが、『実際にそこで何が起こっているのか』を私たちが知ることができるのは、そんな彼等がいるからだと思います。

 

    この本は少なくとも確実に、私の人生に影響を与えた1冊の本です。

 

 

最後に

2007年ミャンマーにて凶弾に倒れた日本人ジャーナリスト、長井健司氏のご冥福を心よりお祈りします

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ロイター通信の Adrees Latif(アドリース・ラティーフ)によって撮られたこの写真は翌2008年のピュリツァー賞受賞作品となりました。

 

ピュリツァー賞 受賞写真 全記録 第2版

ピュリツァー賞 受賞写真 全記録 第2版

  • 作者: ハル・ビュエル,ナショナルジオグラフィック,デービッド・ハルバースタム(序文),河野純治
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